ミシン

乾き切った土壁の間を赤い道が通っている。
喧噪の世界にはその日暮らし人々が溢れていた。
 
直射日光を避けた路地裏にはミシンの音が響いていた。
裸足で踏むペダルが言葉に鳴らない悲鳴を上げたが、鈍く光る瞳を持つ少年は瞬きもしない。
彼が手を止めることはなかった。
彼にとって、それは生活だった。
それは喜びだった。
それが生きることの尊厳だった。
 
向かいの家に住む老婆が玄関口に座り、タバコを吸いながら遠い目でその少年を見つめていた。